多様なグローバルオーディエンスに対応する、堅牢で保守性の高いAPIを構築するための、スケーラブルなGraphQLスキーマ設計パターンを学びます。スキーマスティッチング、フェデレーション、モジュール化をマスターしましょう。
GraphQLスキーマ設計:グローバルAPIのためのスケーラブルなパターン
GraphQLは、クライアントが必要なデータを正確にリクエストできる柔軟性を提供し、従来のREST APIに代わる強力な選択肢として登場しました。しかし、GraphQL APIが複雑化し、その範囲が広がるにつれて – 特に多様なデータ要件を持つグローバルなオーディエンスにサービスを提供する場合 – 慎重なスキーマ設計が保守性、スケーラビリティ、パフォーマンスのために不可欠になります。この記事では、グローバルアプリケーションの要求に対応できる堅牢なAPIを構築するのに役立つ、いくつかのスケーラブルなGraphQLスキーマ設計パターンを探ります。
スケーラブルなスキーマ設計の重要性
適切に設計されたGraphQLスキーマは、成功するAPIの基盤です。それは、クライアントがあなたのデータやサービスとどのように対話できるかを規定します。不適切なスキーマ設計は、以下のような多くの問題を引き起こす可能性があります:
- パフォーマンスのボトルネック:非効率なクエリとリゾルバは、データソースに過負荷をかけ、応答時間を遅くする可能性があります。
- 保守性の問題:モノリシックなスキーマは、アプリケーションの成長に伴い、理解、変更、テストが困難になります。
- セキュリティの脆弱性:不適切に定義されたアクセスコントロールは、機密データを不正なユーザーに公開する可能性があります。
- 限定的なスケーラビリティ:密結合なスキーマは、APIを複数のサーバーやチームに分散させることを困難にします。
グローバルなアプリケーションでは、これらの問題はさらに増幅されます。地域によってデータ要件、規制上の制約、パフォーマンスへの期待が異なる場合があります。スケーラブルなスキーマ設計により、これらの課題に効果的に対処することができます。
スケーラブルなスキーマ設計の主要原則
特定のパターンに飛び込む前に、スキーマ設計を導くべきいくつかの主要な原則を概説しましょう:
- モジュール性:スキーマをより小さく、独立したモジュールに分割します。これにより、APIの個々の部分を理解、変更、再利用しやすくなります。
- 構成可能性:異なるモジュールを容易に組み合わせたり拡張したりできるようにスキーマを設計します。これにより、既存のクライアントを妨げることなく新機能を追加できます。
- 抽象化:基礎となるデータソースやサービスの複雑さを、明確に定義されたGraphQLインターフェースの背後に隠します。これにより、クライアントに影響を与えることなく実装を変更できます。
- 一貫性:スキーマ全体で一貫した命名規則、データ構造、エラー処理戦略を維持します。これにより、クライアントがAPIを学習し、使用しやすくなります。
- パフォーマンスの最適化:スキーマ設計のすべての段階でパフォーマンスへの影響を考慮します。データローダーやフィールドエイリアシングなどのテクニックを使用して、データベースクエリやネットワークリクエストの数を最小限に抑えます。
スケーラブルなスキーマ設計パターン
以下に、堅牢なGraphQL APIを構築するために使用できる、いくつかのスケーラブルなスキーマ設計パターンを紹介します:
1. スキーマスティッチング
スキーマスティッチングを使用すると、複数のGraphQL APIを単一の統一されたスキーマに結合できます。これは、データの異なる部分を担当する異なるチームやサービスがある場合に特に便利です。これは、いくつかのミニAPIを持ち、それらを「ゲートウェイ」APIを介して結合するようなものです。
仕組み:
- 各チームまたはサービスは、独自のスキーマを持つ独自のGraphQL APIを公開します。
- 中央のゲートウェイサービスは、スキーマスティッチングツール(Apollo FederationやGraphQL Meshなど)を使用して、これらのスキーマを単一の統一されたスキーマにマージします。
- クライアントはゲートウェイサービスと対話し、ゲートウェイサービスはリクエストを適切な基礎となるAPIにルーティングします。
例:
商品、ユーザー、注文用に別々のAPIを持つeコマースプラットフォームを想像してみてください。各APIには独自のスキーマがあります:
# 商品API
type Product {
id: ID!
name: String!
price: Float!
}
type Query {
product(id: ID!): Product
}
# ユーザーAPI
type User {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type Query {
user(id: ID!): User
}
# 注文API
type Order {
id: ID!
userId: ID!
productId: ID!
quantity: Int!
}
type Query {
order(id: ID!): Order
}
ゲートウェイサービスは、これらのスキーマをスティッチングして、統一されたスキーマを作成できます:
type Product {
id: ID!
name: String!
price: Float!
}
type User {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type Order {
id: ID!
user: User! @relation(field: "userId")
product: Product! @relation(field: "productId")
quantity: Int!
}
type Query {
product(id: ID!): Product
user(id: ID!): User
order(id: ID!): Order
}
Order
型が、User
とProduct
が別のAPIで定義されているにもかかわらず、それらへの参照を含んでいることに注目してください。これは、スキーマスティッチングのディレクティブ(この例では@relation
など)を通じて実現されます。
利点:
- 分散された所有権:各チームは独自のデータとAPIを独立して管理できます。
- スケーラビリティの向上:各APIを特定のニーズに基づいて独立してスケーリングできます。
- 複雑さの軽減:クライアントは単一のAPIエンドポイントとのみ対話すればよくなります。
考慮事項:
- 複雑さ:スキーマスティッチングはアーキテクチャに複雑さを加える可能性があります。
- レイテンシー:ゲートウェイサービスを介してリクエストをルーティングすると、レイテンシーが発生する可能性があります。
- エラー処理:基礎となるAPIの障害に対処するために、堅牢なエラー処理を実装する必要があります。
2. スキーマフェデレーション
スキーマフェデレーションは、スキーマスティッチングのいくつかの制限に対処するために設計された、その進化形です。GraphQLスキーマを構成するための、より宣言的で標準化されたアプローチを提供します。
仕組み:
- 各サービスはGraphQL APIを公開し、そのスキーマにフェデレーションディレクティブ(例:
@key
、@extends
、@external
)で注釈を付けます。 - 中央のゲートウェイサービス(Apollo Federationを使用)は、これらのディレクティブを使用して、フェデレーションされたスキーマ全体を表すスーパーグラフを構築します。
- ゲートウェイサービスは、スーパーグラフを使用してリクエストを適切な基礎となるサービスにルーティングし、依存関係を解決します。
例:
同じeコマースの例を使用すると、フェデレーションされたスキーマは次のようになります:
# 商品API
type Product @key(fields: "id") {
id: ID!
name: String!
price: Float!
}
type Query {
product(id: ID!): Product
}
# ユーザーAPI
type User @key(fields: "id") {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type Query {
user(id: ID!): User
}
# 注文API
type Order {
id: ID!
userId: ID!
productId: ID!
quantity: Int!
user: User! @requires(fields: "userId")
product: Product! @requires(fields: "productId")
}
extend type Query {
order(id: ID!): Order
}
フェデレーションディレクティブの使用に注目してください:
@key
:型の主キーを指定します。@requires
:フィールドが別のサービスのデータを必要とすることを示します。@extends
:サービスが別のサービスで定義された型を拡張できるようにします。
利点:
- 宣言的な構成:フェデレーションディレクティブにより、スキーマの依存関係を理解し、管理しやすくなります。
- パフォーマンスの向上:Apollo Federationは、クエリの計画と実行を最適化してレイテンシーを最小限に抑えます。
- 型安全性の強化:スーパーグラフにより、すべての型がサービス間で一貫していることが保証されます。
考慮事項:
- ツール:Apollo Federationまたは互換性のあるフェデレーション実装を使用する必要があります。
- 複雑さ:スキーマスティッチングよりも設定が複雑になる可能性があります。
- 学習曲線:開発者はフェデレーションディレクティブと概念を学ぶ必要があります。
3. モジュラースキーマ設計
モジュラースキーマ設計は、大きなモノリシックなスキーマを、より小さく管理しやすいモジュールに分割することを含みます。これにより、フェデレーションスキーマに頼ることなく、APIの個々の部分を理解、変更、再利用しやすくなります。
仕組み:
- スキーマ内の論理的な境界(例:ユーザー、商品、注文)を特定します。
- 各境界に対して別々のモジュールを作成し、その境界に関連する型、クエリ、ミューテーションを定義します。
- (GraphQLサーバーの実装に応じて)インポート/エクスポートメカニズムを使用して、モジュールを単一の統一されたスキーマに結合します。
例(JavaScript/Node.jsを使用):
各モジュール用に別々のファイルを作成します:
// users.graphql
type User {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type Query {
user(id: ID!): User
}
// products.graphql
type Product {
id: ID!
name: String!
price: Float!
}
type Query {
product(id: ID!): Product
}
次に、メインのスキーマファイルでそれらを結合します:
// schema.js
const { makeExecutableSchema } = require('graphql-tools');
const { typeDefs: userTypeDefs, resolvers: userResolvers } = require('./users');
const { typeDefs: productTypeDefs, resolvers: productResolvers } = require('./products');
const typeDefs = [
userTypeDefs,
productTypeDefs,
""
];
const resolvers = {
Query: {
...userResolvers.Query,
...productResolvers.Query,
}
};
const schema = makeExecutableSchema({
typeDefs,
resolvers,
});
module.exports = schema;
利点:
- 保守性の向上:小さなモジュールの方が理解しやすく、変更しやすいです。
- 再利用性の向上:モジュールはアプリケーションの他の部分で再利用できます。
- より良いコラボレーション:異なるチームが異なるモジュールで独立して作業できます。
考慮事項:
- オーバーヘッド:モジュール化は開発プロセスに多少のオーバーヘッドを追加する可能性があります。
- 複雑さ:循環依存を避けるために、モジュール間の境界を慎重に定義する必要があります。
- ツール:モジュラースキーマ定義をサポートするGraphQLサーバー実装を使用する必要があります。
4. インターフェース型とユニオン型
インターフェース型とユニオン型を使用すると、複数の具象型によって実装できる抽象型を定義できます。これは、文脈に応じて異なる形をとることができる多態的なデータを表現するのに便利です。
仕組み:
- 一連の共通フィールドを持つインターフェースまたはユニオン型を定義します。
- インターフェースを実装するか、ユニオンのメンバーである具象型を定義します。
- 実行時に具象型を識別するために
__typename
フィールドを使用します。
例:
interface Node {
id: ID!
}
type User implements Node {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type Product implements Node {
id: ID!
name: String!
price: Float!
}
union SearchResult = User | Product
type Query {
node(id: ID!): Node
search(query: String!): [SearchResult!]!
}
この例では、User
とProduct
の両方が、共通のid
フィールドを定義するNode
インターフェースを実装しています。SearchResult
ユニオン型は、User
またはProduct
のいずれかであり得る検索結果を表します。クライアントはsearch
フィールドをクエリし、その後__typename
フィールドを使用して、受け取った結果のタイプを判断できます。
利点:
- 柔軟性:多態的なデータを型安全な方法で表現できます。
- コードの再利用:インターフェースとユニオンで共通フィールドを定義することにより、コードの重複を減らします。
- クエリ可能性の向上:クライアントが単一のクエリを使用して異なる種類のデータをクエリしやすくなります。
考慮事項:
- 複雑さ:スキーマに複雑さを加える可能性があります。
- パフォーマンス:インターフェース型とユニオン型を解決することは、具象型を解決するよりもコストがかかる場合があります。
- イントロスペクション:クライアントは、実行時に具象型を決定するためにイントロスペクションを使用する必要があります。
5. コネクションパターン
コネクションパターンは、GraphQL APIでページネーションを実装するための標準的な方法です。大量のデータリストをチャンクで取得するための一貫性のある効率的な方法を提供します。
仕組み:
edges
とpageInfo
フィールドを持つコネクション型を定義します。edges
フィールドにはエッジのリストが含まれ、各エッジにはnode
フィールド(実際のデータ)とcursor
フィールド(ノードの一意の識別子)が含まれます。pageInfo
フィールドには、次のページがあるかどうか、最初と最後のノードのカーソルなど、現在のページに関する情報が含まれます。- ページネーションを制御するために、
first
、after
、last
、before
引数を使用します。
例:
type User {
id: ID!
name: String!
email: String!
}
type UserEdge {
node: User!
cursor: String!
}
type UserConnection {
edges: [UserEdge!]!
pageInfo: PageInfo!
}
type PageInfo {
hasNextPage: Boolean!
hasPreviousPage: Boolean!
startCursor: String
endCursor: String
}
type Query {
users(first: Int, after: String, last: Int, before: String): UserConnection!
}
利点:
- 標準化されたページネーション:API全体でページネーションを実装するための一貫した方法を提供します。
- 効率的なデータ取得:大量のデータリストをチャンクで取得できるため、サーバーの負荷を軽減し、パフォーマンスを向上させます。
- カーソルベースのページネーション:カーソルを使用して各ノードの位置を追跡します。これはオフセットベースのページネーションよりも効率的です。
考慮事項:
- 複雑さ:スキーマに複雑さを加える可能性があります。
- オーバーヘッド:コネクションパターンを実装するために追加のフィールドと型が必要です。
- 実装:カーソルが一意で一貫していることを保証するために、慎重な実装が必要です。
グローバルな考慮事項
グローバルなオーディエンス向けのGraphQLスキーマを設計する際には、以下の追加要素を考慮してください:
- ローカリゼーション:ディレクティブまたはカスタムスカラ型を使用して、さまざまな言語や地域をサポートします。たとえば、異なる言語の翻訳を格納するカスタムの`LocalizedText`スカラを持つことができます。
- タイムゾーン:タイムスタンプをUTCで保存し、クライアントが表示目的で自分のタイムゾーンを指定できるようにします。
- 通貨:一貫した通貨形式を使用し、クライアントが表示目的で好みの通貨を指定できるようにします。これを表現するためにカスタムの`Currency`スカラを検討してください。
- データレジデンシー:データが現地の規制に準拠して保存されていることを確認します。これには、APIを複数のリージョンにデプロイするか、データマスキング技術を使用する必要がある場合があります。
- アクセシビリティ:障害のあるユーザーがアクセスしやすいようにスキーマを設計します。明確で説明的なフィールド名を使用し、データにアクセスするための代替方法を提供します。
たとえば、商品説明フィールドを考えてみましょう:
type Product {
id: ID!
name: String!
description(language: String = "en"): String!
}
これにより、クライアントは特定の言語で商品説明をリクエストできます。言語が指定されていない場合、デフォルトで英語(`en`)になります。
結論
スケーラブルなスキーマ設計は、グローバルアプリケーションの要求に対応できる、堅牢で保守性の高いGraphQL APIを構築するために不可欠です。この記事で概説した原則に従い、適切な設計パターンを使用することで、理解しやすく、変更・拡張が容易で、優れたパフォーマンスとスケーラビリティを提供するAPIを作成できます。スキーマをモジュール化し、構成し、抽象化し、グローバルなオーディエンスの特定のニーズを考慮することを忘れないでください。
これらのパターンを取り入れることで、GraphQLの潜在能力を最大限に引き出し、今後何年にもわたってアプリケーションを支えることができるAPIを構築できます。