世界中の機関を対象に、収集戦略、保存技術、倫理的配慮を網羅したコレクション管理の包括的ガイド。
コレクション管理:世界に向けた収集と保存
コレクション管理は、博物館、図書館、アーカイブ、その他の文化遺産機関における資料や情報のライフサイクル全体を網羅する多面的な専門分野です。それは単に資料を最初に収集することだけでなく、その長期的な保存、記録、そしてアクセシビリティも含まれます。本ガイドでは、世界中の読者を対象に、コレクション管理の原則と実践に関する包括的な概要を提供します。
コレクション管理の範囲を理解する
コレクション管理は、単に資料を保管すること以上の意味を持ちます。それは、文化遺産を保護し、現在および未来の世代が利用できるようにするための戦略的かつ倫理的な取り組みです。主な側面は以下の通りです:
- 収集:コレクションに新しい資料を追加するプロセス。
- 記録:各資料に関する正確な記録を作成・維持すること。
- 保存:劣化や損傷を防ぐための対策を実施すること。
- 修復:損傷または劣化した資料の処置と修理。
- アクセスと利用:研究、教育、展示のためにコレクションへのアクセスを提供すること。
- 登録抹消(デアセッション):コレクションから資料を除籍すること。これは慎重に検討されるプロセスです。
収集戦略:意義あるコレクションの構築
収集はコレクション管理の重要な側面であり、機関の所蔵品の性格と重要性を形成します。明確に定義された収集方針は不可欠であり、何を収集するかの決定を導き、新たな収集品が機関の使命と戦略的目標に合致することを保証します。
収集方針の策定
収集方針では、以下の点を扱うべきです:
- コレクションの範囲:収集する資料の種類、地理的焦点、対象となる時代を定義します。
- 収集方法:資料をどのように取得するか(例:購入、寄贈、フィールドワーク)を明記します。
- 選定基準:収集候補を評価する際に考慮する要素(例:関連性、状態、来歴、重複)の概要を記述します。
- 倫理的配慮:文化的な感受性、返還、法的遵守などの問題に対処します。
- リソース:新たな収集品のケアに必要なリソース(例:保管スペース、人員、保存修復)を考慮します。
収集の方法
機関は様々な方法で資料を収集します:
- 寄贈:個人や組織からの贈り物。寄贈証書を用いて寄贈を適切に記録することが極めて重要です。
- 購入:ディーラー、オークション、または制作者から直接購入すること。真正性と法的な所有権を保証するために、デューデリジェンス(正当な注意)が不可欠です。
- フィールドワーク:考古学的発掘、民族誌学的調査、または自然史探査を通じて資料を収集すること。倫理的配慮と許可が最重要です。例えば、アマゾンの熱帯雨林で植物標本を収集する博物館は、関係当局からの許可を必要とし、生物多様性に関する国際協定を遵守しなければなりません。
- 遺贈:遺言によって相続された資料。法的遵守と寄贈者の意図を確実にするために、慎重な管理が必要です。
- 移管:他の機関から受け取った資料。機関が閉鎖されたり、資料を登録抹消したりする際にしばしば発生します。
収集における倫理的配慮
倫理的な収集は、今日のグローバルな環境において最も重要です。機関は文化財の不正取引の可能性を認識し、収集品が倫理的に調達され、合法的に取得されたものであることを保証するための措置を講じなければなりません。これには以下が含まれます:
- 来歴調査:資料の所有歴を調査し、空白期間や危険信号を特定します。
- デューデリジェンス:資料の法的地位とその輸出履歴を確認します。
- 国際法および条約の遵守:「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する1970年ユネスコ条約」などの条約を遵守します。
- 返還:文化財をその原産国やコミュニティに返すこと。多くの博物館が返還請求に積極的に取り組んでいます。例えば、大英博物館はエルギン・マーブルをギリシャに返還するよう求める圧力の高まりに直面しています。
- 文化的感受性への対応:資料に関連する文化的価値観や伝統を尊重すること。これには、先住民コミュニティや他の利害関係者との協議が含まれる場合があります。例えば、アボリジニ・オーストラリア文化の神聖な品物を展示する博物館は、適切な展示と解釈についてコミュニティの長老と協議することがよくあります。
コレクションのケア:保存と修復
保存と修復は、コレクションの長期的な存続を保証するために不可欠です。保存は劣化を最小限に抑えるための予防的措置に焦点を当て、一方、修復は損傷または劣化した資料の処置を伴います。
予防的保存:安定した環境の創出
予防的保存は、コレクションを保護するための最も費用対効果の高い方法です。これには、環境要因の管理、資料の慎重な取り扱い、適切な保管および展示方法の実践が含まれます。
環境管理
安定した温度と湿度レベルを維持することが極めて重要です。変動は、素材の膨張・収縮を引き起こし、ひび割れ、歪み、その他の損傷の原因となります。
- 温度:理想的には、温度を一定に保ち、コレクションの素材に適した範囲内に維持すべきです。一般的に、長期保存には低温が適しています。
- 相対湿度(RH):安定したRHの維持は非常に重要です。高RHはカビの発生や腐食を促進し、低RHは素材を乾燥させてもろくする可能性があります。複合的なコレクションには、RH 50% +/- 5%がしばしば推奨されます。
- 光:光、特に紫外線(UV)放射への曝露は、色あせ、黄変、脆弱化を引き起こす可能性があります。照度はできるだけ低く保ち、窓や照明器具にはUVフィルターを使用すべきです。
- 汚染物質:ほこり、すす、揮発性有機化合物(VOC)などの大気汚染物質は、コレクションに損傷を与える可能性があります。空気ろ過システムは、汚染物質の除去に役立ちます。
取り扱いと保管
物理的な損傷を防ぐためには、適切な取り扱いと保管が不可欠です。
- 取り扱い:資料、特にデリケートな素材でできたものを取り扱う際は、手袋を着用してください。表面に直接触れることを避け、適切な支持を提供してください。
- 保管:資料は、中性紙の箱、フォルダー、その他のアーカイブ品質の素材に保管してください。資料同士がこすれ合うのを防ぐために、緩衝材や仕切りを使用してください。例えば、布製品は平置きにするか、中性紙の芯に巻いて保管すべきです。金属製品は、乾燥剤や腐食防止剤で腐食から保護すべきです。
- 害虫管理:昆虫、げっ歯類、その他の害虫の発生を防ぐために、総合的有害生物管理(IPM)プログラムを実施してください。IPMには、害虫のモニタリング、発生源の特定、そして可能な限り非化学的な防除対策の実施が含まれます。
修復処置:損傷資料の修理と安定化
修復は、損傷または劣化した資料の処置と修理を伴います。修復処置は、文化遺産を安定させ保存するための知識と技術を持つ、資格のあるコンサーベーター(保存修復士)によって行われるべきです。
修復処置の種類
- クリーニング:汚れ、ほこり、その他の表面付着物の除去。
- 修理:破損、裂け目、その他の構造的損傷の修復。
- 強化:弱くなった素材の強化。
- 安定化:さらなる劣化の防止。
- 補彩:資料の外観を改善するための欠損部の補彩(倫理的かつ可逆的に行われる)。
修復における倫理的配慮
修復倫理は、文化遺産の完全性を維持し、処置の影響を最小限に抑えることの重要性を強調します。主な原則は以下の通りです:
- 可逆性:将来的に元に戻したり除去したりできる素材や技術を使用すること。
- 最小限の介入:資料を安定させ保存するために必要なことだけを行うこと。
- 記録:すべての処置手順を慎重に記録すること。
- 資料の歴史の尊重:資料の元の外観や重要性を変えてしまうような処置を避けること。
記録とアクセス:コレクションを利用可能にする
包括的な記録は、コレクションを効果的に管理し、研究者、教育者、一般の人々がアクセスできるようにするために不可欠です。記録には、各資料の来歴、状態、処置履歴など、正確な情報の作成と維持が含まれます。
記録の作成
記録は収集時に作成し、資料のライフサイクルを通じて更新されるべきです。記録の主要な要素は以下の通りです:
- 資料ID:各資料に割り当てられる一意の識別子。
- 記述:素材、寸法、状態など、資料の詳細な記述。
- 来歴:資料の所有歴に関する情報。
- 画像:資料の高画質な写真。
- 修復記録:行われたすべての修復処置の記録。
- 所在場所:資料が保管されている場所に関する情報。
アクセスと利用
機関は、以下を含む様々な手段を通じてコレクションへのアクセスを提供します:
- 展示:一般に資料を展示すること。
- 研究:学術研究のために研究者にアクセスを提供すること。
- 教育:教育プログラムのためにコレクションを使用すること。
- オンラインデータベース:コレクション情報をオンラインで利用可能にすること。例えば、現在多くの博物館がオンラインで検索可能なカタログを持っており、世界中の研究者が所蔵品に関する情報にアクセスできます。スミソニアン博物館のオンラインコレクションデータベースはその代表例です。
- 貸出:展示や研究のために他の機関に資料を貸し出すこと。
デジタル保存:ボーンデジタルおよびデジタル化資料の保護
デジタル保存は、デジタル資料が長期にわたってアクセス可能かつ利用可能であり続けることを保証するプロセスです。これには、ボーンデジタル資料(デジタル形式で作成されたもの)とデジタル化資料(アナログ形式から変換されたもの)が含まれます。
デジタル保存の課題
デジタル資料は、以下を含む様々な脅威に対して脆弱です:
- 技術の陳腐化:ハードウェアとソフトウェアが時代遅れになり、デジタルファイルへのアクセスが困難になります。
- ファイル形式の陳腐化:ファイル形式がサポートされなくなり、デジタルファイルを開くことが不可能になります。
- ビットロット(データ劣化):時間とともにデータが劣化し、ファイルの破損につながります。
- 記憶媒体の障害:ハードドライブ、CD、その他の記憶媒体が故障し、データの損失につながります。
デジタル保存の戦略
機関は、デジタル保存の課題に対処するために様々な戦略を採用しています:
- マイグレーション:ファイルを新しいファイル形式に変換すること。
- エミュレーション:古いハードウェアやソフトウェアを模倣する仮想環境を作成すること。
- ノーマライゼーション(正規化):ファイルを標準的なファイル形式に変換すること。
- ストレージ管理:デジタルファイルの管理とバックアップのための戦略を実施すること。クラウドストレージソリューションは拡張性と冗長性を提供しますが、データセキュリティとプライバシーを慎重に考慮する必要があります。
- メタデータ:発見とアクセスを容易にするための記述メタデータを作成すること。
登録抹消(デアセッション):コレクションの増加を管理する
登録抹消(デアセッション)は、博物館のコレクションから資料を恒久的に除籍するプロセスです。これは慎重な検討の後にのみ下されるべき重大な決定です。登録抹消は、コレクションの増加を管理し、コレクションの焦点を洗練させ、収集と保存修復を支援するための収益を生み出すために必要な手段となり得ます。
登録抹消の理由
登録抹消の一般的な理由には、以下が含まれます:
- 関連性:資料がもはや機関の使命や収集範囲に合致しない。
- 重複:機関がすでに同じ資料の複数の例を所蔵している。
- 状態:資料の状態が悪すぎて、保存修復も展示もできない。
- 来歴の問題:資料の所有歴や法的地位に関する疑問。
- 返還請求:文化財返還の正当な請求に対応するため。
登録抹消における倫理的配慮
登録抹 छोड़は、責任ある透明な方法で実施されることを保証するために、倫理原則に導かれるべきです。主な考慮事項は以下の通りです:
- 透明性:登録抹消プロセスを公開し、説明責任を果たすこと。
- 協議:学芸員、評議員、コミュニティ代表などの利害関係者と協議すること。
- 収益の使途:専門的なガイドラインに従い、登録抹消による売却収益を収集と保存修復の支援に使用すること。
- 法的遵守:登録抹消プロセスが適用されるすべての法律および規制を遵守していることを確認すること。
結論:未来のための文化遺産の管理
コレクション管理は、世界中の博物館、図書館、アーカイブ、その他の文化遺産機関にとって不可欠な機能です。健全な収集戦略を実施し、責任ある保存と修復を実践し、コレクションへのアクセスを提供することで、機関は文化遺産が保護され、現在および未来の世代が利用できるよう保証することができます。倫理的配慮は常にコレクション管理の決定の最前線にあるべきであり、文化遺産が敬意と感受性をもって扱われることを保証します。
コレクション管理の課題は、特にデジタル時代において絶えず進化しています。技術が進歩し、文化遺産に対する私たちの理解が深まるにつれて、機関はコレクションとコミュニティの変化するニーズに対応するために、その実践を適応させなければなりません。革新と協力を受け入れることで、機関は世界の文化遺産を保存し共有する上で重要な役割を果たし続けることができます。